「細雪」と吉原治良2015年12月06日 16:52

「細雪」を読み終えて昨日は西宮への用事のあと魚崎の「椅松庵」に足を伸ばした。その建物は住吉川のほとりのモダンなマンションやお邸が連なる中に孤高の人の如く在った。
華やかな印象の「細雪」の舞台であった家は案外慎ましい、あの大世帯が棲むのには。
どこに居ても人の息吹きが伝わってくるような、来客の話も女中部屋にも聞こえてくるような、二階への急な階段、二階の人の動静も伝わってくるような、狭い台所や可愛い五右衛門風呂など、、、そう感じるのはおそらく時代背景の違いだろうか。
廊下の電話機が印象的、これが鳴ったら家中響いたことだろう。その前に立つ雪子さんのもじもじした姿が瞼に浮かんできそう。
谷崎はこの家に昭和 11年 (1936) から 昭和 18 年 (1943) までほぼ8年間住んでいた。
「細雪」は姉妹四人のドラマが主題ではあるが、谷崎は時代背景を綿密に描写している。経済の流れや内外の政治や阪神間の暮らしの様や神戸・大阪の街の様子など綿密にそして生き生きと描かれている、もちろん大水害も。具体美術とも妙子の洋裁の先生のモデルは田中千代が関連する。
ちなみに重なる年代を繰ってみると
阪神時代 谷崎潤一郎 51才 ~57 才、吉原治良 31才~37 才
阪神大水害 1938 年 谷崎潤一郎 53才,吉原治良 33 才
何を言いたいのかといえば「細雪」から当時の阪神間の中上流階級のバックボーンが探れること、つまり具体美術の創立者・吉原治良への認識が深まるのではということなのです。
阪神電車の窓から見える夕陽を浴びるこの六甲山、谷崎潤一郎も吉原治良も何度も目にしことだろう。偉大なる芸術家に改めて尊念を覚えた。

マチエールの魅力2015年12月25日 22:14

 
杉全直といえば骨太な亀甲のフォルムの印象が強い、私にとっては。
というのも美術館の常設コーナーはその画家の最も代表的な作品をチョイスしているからなのだ。回顧展をみなければ画家を知ったとは言えない。
たまたま沢山の作品を見る機会を得た。そして改めて<マチエール>という言葉を強く認識させられた。
絵画にとって<マチエール>ってなんだろう?色や形おいても決して作品にはならない。
色や形が<マチエール>として画面に定着することにより絵画がうまれてくるのだ。
文学でいえば言葉に該当するのではないだろうか?文学者は言葉に心血を注ぐ、画家は<マチエール>に全霊を籠める。
杉又直の作品に身直に触れて改めて絵画の絵画であることの意味と魅力を覚えさせられた。

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